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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)573号 判決

控訴人 新潟県信用保証協会

右代表者理事 岩野九二夫

右訴訟代理人弁護士 木村哲

被控訴人 菅栄策

右訴訟代理人弁護士 長谷川均

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は、控訴人に対し、金二七四万四三六四円及びこれに対する昭和五七年七月二四日から支払ずみまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

理由

一  ≪証拠≫を総合すると、請求の原因1(控訴人と協和電気との間の信用保証委託契約の成立)、同3(協和電気と株式会社大光相互銀行新発田支店((以下「大光相互」という。))との金銭消費貸借契約とその変更契約の成立)、同4及び同5(控訴人から右銀行に対する代位弁済)の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

二  そこで、被控訴人が本件連帯保証契約を締結したか否かの点について判断する。

本件において連帯保証契約の成立を直接に証すべき甲第一号証の一(信用保証委託契約書)中被控訴人の住所、氏名、の各記載及び押印が被控訴人の養母である菅ムツによつてなされたものであることは、原審証人菅ムツの証言によつて明らかであり、控訴人も争わないところである。

しかしながら、右甲第一号証の一、第一四号証の一、二(保証条件変更申込書)、第三号証の一、二(金銭消費貸借契約証書及び念書)中各連帯保証人欄の被控訴人名下の印影がいずれも被控訴人の実印によつて顕出されたものであることは、被控訴人の認めるところであるうえ、≪証拠≫を総合すると、協和電気を経営する佐藤耕平は被控訴人の養父である菅耕策の実弟で、被控訴人と叔父、甥の関係にあり、右耕策は従前から耕平に依頼され、数回にわたつて協和電気が大光相互から融資を受けるについて連帯保証人となつていたが、昭和五五年七月一二日死亡し、その当時大光相互として控訴人の保証付きで協和電気に対して金二〇〇万円と金一〇〇万円の二口の貸金債権を有していたので連帯保証人である耕策の死亡に伴い、これを一本にまとめるとともに保証人の変更手続をとることにし、同年九月三日佐藤耕平から甲第一号証の一を初めとする関係書類の提出を受けてその手続を了したのが本件貸付金であること、その後右貸付金につき協和電気と大光相互の間で昭和五六年三月三一日及び同年七月三一日の二回にわたり弁済方法等変更の合意がなされ、これに伴つて佐藤耕平から、右期日ころそれぞれ大光相互を経由して控訴人に対し保証条件変更申込書(甲第一四号証の一、二)が、また右七月三一日ころ大光相互に対し、金銭消費貸借契約証書及び念書(甲第三号証の一、二)が提出されたが、右各申込書、契約証書及び念書の連帯保証人欄の被控訴人名下にはいずれも被控訴人の実印が押捺されていること、前記昭和五五年九月三日の貸付金一本化等の際及び同五六年七月三一日の弁済方法変更の際にそれぞれ被控訴人名義の印鑑証明書(甲第一号証の一、第三号証の三)が添付提出されていること、前記金銭消費貸借契約証書及び念書(甲第三号証の一、二)の連帯保証人欄の被控訴人の住所氏名は被控訴人の妻である菅スミ子によつて記載されたものであるが、菅ムツ及びスミ子はいずれも家族として被控訴人と同居していること、大光相互はその後協和電気が本件債務の履行を遅滞したところから、昭和五六年九月一〇日ころ被控訴人に対し保証人として主債務者である協和電気が債務を履行するよう督促方を依頼するとともに、保証責任追求の事態もあり得ることを警告した書面を送付し、次いで同五七年二月九日及び同年五月一七日配達の各内容証明郵便により連帯保証人として右債務を弁済するよう催告し、一方控訴人は被控訴人に対し、昭和五七年七月二三日ころ、前記認定のとおり本件債務を代位弁済したことを通知するとともに、信用保証委託契約に基づく保証債務の履行を求め、更に昭和五八年八月ころと一〇月ころの二回にわたり控訴人担当職員小林忠史が被控訴人宅を訪れ、菅ムツ及び菅スミ子と会つて事情を説明したが、その間被控訴人、菅ムツ及び菅スミ子から大光相互及び控訴人に対し本件金三〇〇万円の債務につき連帯保証をしていない旨の申し出は一切なかつたこと、その後本件連帯保証債務につき控訴人の申立により支払命令が発せられ、これに対し、昭和五八年一二月三日被控訴人から異議の申立てがなされ(本件記録上明らかである。)たものの、昭和五九年一月一四日、前記小林忠史が控訴人方事務所まで出向いてきた被控訴人と面接した際、保証債務の履行についての話し合いはされたが、被控訴人から本件連帯保証契約の成立を否定するような発言は一切なかつたこと、本件貸付金とは別個に大光相互は協和電気に対し、昭和五五年九月と一〇月に二回にわたりいずれも被控訴人の連帯保証の約のもとに各金一〇〇万円を貸付けており、右第一回目の金一〇〇万円はその後弁済されたが、第二回目の金一〇〇万円については弁済されず、同貸付金については本件と同様信用保証委託契約により控訴人が保証していたため控訴人において昭和五七年四月二三日大光相互へ代位弁済し、右求償債権につき被控訴人に対し、昭和五七年五月一四日、新発田簡易裁判所に申立てて支払命令の発付を受けたが、同支払命令はそのころ異議の申立もなく確定したことが、それぞれ認められる。

以上各認定事実に、原審証人菅ムツがその証言において、佐藤耕平が信用保証委託契約書(甲第一号証の一)に被控訴人の押印を貰いにきた際、被控訴人の承諾は既に得ている旨述べていたと供述していることなどをも総合考慮するならば、前記のとおり信用保証委託契約書中の被控訴人の記名押印は菅ムツにおいてなしたものではあるが少くとも右委託契約書作成のころ被控訴人は本件連帯保証についてこれを承諾していたものと認めざるを得ない。原審証人菅ムツの証言及び原審における被控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して措信することができず、他に右認定を覆す証拠はない。

三  そうだとするならば、被控訴人は控訴人に対し、前記求償金二七四万四三六四円及びこれに対する代位弁済の翌日である昭和五七年七月二四日から支払ずみまで約定の年一四・六パーセントの割合による損害金の支払義務があるものというべきである。

四  以上の次第で、控訴人の本訴請求は理由があり、これと結論を異にする原判決は失当であつて本件控訴は理由があるから、原判決を取り消したうえ控訴人の請求を認容

(裁判長裁判官 小川昭二郎 裁判官 鈴木経夫 佐藤康)

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